令和家計の「固定費+非消費支出」比率
約59%/ 生きるだけでかかる最低コスト
江戸の町人の同比率
約17%/ 非消費支出はほぼゼロ

令和の家計は、スマホひとつで決済も投資もできる、過去もっとも「豊か」に見える時代のはずだ。しかし帳簿を開いてみると、そこには江戸にも昭和にも存在しなかった「一度上げたら下げられない固定費」が幾重にも積み上がっている。今回は、住居費・食費・通信光熱費・税や社会保険料という4つの支出セクターを軸に、3時代の家計ポートフォリオをFP目線で並べて査定する。

013時代の家計簿ポートフォリオ比較

各時代の「一般的な労働者世帯」の月間支出を、家計に占める割合(概算)でセクターごとにプロットした。棒の長さはセクター内での相対比較であり、江戸=紺 / 昭和=朱 / 令和=金の3色で示す。

住居費(家賃・ローン)が家計に占める割合

江戸の町人(裏長屋)約15%
昭和の家庭(持家・住宅ローン)約20%
令和の家庭(賃貸・住宅ローン)約28%

食費(エンゲル係数)が家計に占める割合

江戸の町人約55%
昭和の家庭約27%
令和の家庭約25%

通信・光熱費(デジタルインフラ含む)が家計に占める割合

江戸の町人(行灯の油代のみ)約2%
昭和の家庭(電気・電話)約6%
令和の家庭(スマホ・回線・サブスク)約9%

税・社会保険料(非消費支出)が家計に占める割合

江戸の町人(間接税のみ)ほぼ0%
昭和の家庭約12%
令和の家庭約22%

食費の比率こそ江戸が突出しているが、これは「それ以外の固定費がほぼゼロだったから」に過ぎない。住居・通信・税社会保障の3セクターを合算した「生きるだけでかかる固定費」は、江戸が約17%であるのに対し、昭和は約38%、令和にいたっては約59%まで膨張している。令和の家計は、収入の6割近くが手を付けられないまま自動的に消えていく構造にあるのだ。

02江戸の町人家計:「宵越しの銭」を支えた極限の変動費経営

江戸の町人(借家人)の最大の特徴は、固定費がほぼ存在しないという驚異的なキャッシュフローの柔軟性にある。長屋は畳や建具、鍋釜や衣類にいたるまでレンタルが基本で、引っ越しも極めて容易。現代でいう「アドレスホリック(多拠点・身軽な生活)」に近い身の軽さだった。

さらに、当時の年貢(所得税に相当)は農民に課されるものであり、都市の町人は実質的に所得税や社会保険料を免除されていた。非消費支出がゼロに近いからこそ、エンゲル係数が5割を超える極端な家計でも、収入が減れば家賃の安い長屋に移るだけで済み、自己破産に至らない。固定費を持たないことそのものが、最強のリスクヘッジになっていたのである。

03昭和の家庭家計:「一億総中流」を支えた右肩上がりのレバレッジ

1980年代の昭和の家計を象徴するのは、終身雇用と年功序列を担保にした長期コミット型投資である。「賃貸→分譲マンション→郊外の一戸建て」という住宅すごろくの王道があり、35年ローンを組んでも「給与は右肩上がりに増える」という前提が共有されていたため、レバレッジ(借入)のリスクは極めて低かった。

また、夫の片稼ぎ(シングルインカム)で家計が成立していたため、いざという時には「妻がパートに出る」という強力な家計の余力が残されていた。税・社会保険料の負担も現代より大幅に軽く、定期預金の金利が年5〜6%という、預けるだけで資産が増えるボーナスステージでもあった。昭和の家計は、固定費こそ江戸より重いが、それを上回る「右肩上がり」という追い風で相殺できていた時代だったといえる。

昭和の家庭「35年ローンは重いが、来年も再来年も給料は上がる。今組んでおくのが一番お得だ。」

令和の家庭「固定費は上がる一方なのに、給料が同じペースで増える保証はどこにもない。」

04令和の家庭家計:「多重固定費」とダブルインカムの罠

現代の令和の家計簿は、過去のどの時代よりも「固定費の損益分岐点」が高止まりしている。給与明細から天引きされる厚生年金・健康保険・所得税や住民税の比率は昭和から右肩上がりで上昇し、額面の2割以上が自動的にロックアップされる。これが「非消費支出」という令和最大の固定費だ。

さらに、昭和には存在しなかったスマホ代・インターネット回線・動画や音楽のサブスクリプション・クラウド容量の課金など、解約しにくい通信・情報費が固定費として毎月確実に家計を削っていく。加えて、世帯年収を維持するために共働きが前提化した結果、昭和の家計にあった「いざとなったら妻がパートに出る」というバッファーは消滅し、代わりに保育料や外食・惣菜といった時短コストという新たなサンクコストが発生する構造になっている。

豊かで見栄えの良いアセット(最新家電、デジタルインフラ)に囲まれている一方で、「一度上げたら下げられない固定費」の包囲網に常にさらされているのが、令和という時代の家計簿の実像である。

05帳簿のまとめ:令和に生きる私たちが見るべき「家計の防衛策」

3時代 「生きるだけでかかる固定費」比率まとめ
時代住居・通信・税社会保障の合計比率
江戸の町人約17%
昭和の家庭約38%
令和の家庭約59%

江戸の教訓は、固定費を下げれば不況への耐性は最強になるということ。昭和の教訓は、右肩上がりの神話はすでに終わっており、過去の「住宅すごろく」の予算感覚を令和に持ち込むのは危険だということだ。

江戸の町人のような「変動費化の知恵」を現代風にアレンジし、格安SIMへの乗り換えやサブスクの定期的な棚卸し、NISAなどを用いた自発的な資産防衛(インカムゲインの構築)を行わなければ、豊かさの実感を得にくい――これが、令和という時代の家計簿が突きつける現実である。

FP査定 / VERDICT

令和の家計は、江戸より豊かで、昭和より不自由。

令和の家計は物質的には過去最高に豊かだが、非消費支出とデジタル固定費の多重化によって「動かせるお金」の余白は過去のどの時代よりも狭い。江戸の変動費経営、昭和の資産防衛意識、その両方の知恵を借りながら、固定費そのものを定期的に見直す姿勢が、令和に生きる私たちにとっての最重要科目である。

※本記事は史料・統計をもとにした概算による創作コンテンツです。掲載する比率はモデルケースを用いたパロディ・シミュレーションであり、各時代の実際の家計統計や個々の世帯の実情を正確に示すものではありません。

← 令和編に戻る